2001奥久慈トレイルアドベンチャーラン

 

   「好きな山歩きとゆっくりラン。ちょっと過酷ともいえる大人のこの遊びにチャレンジできる喜びを、他の参加者と共に体感したい」という言葉を参加申込書に書き込んで始まった私のこのチャレンジ。本大会は、以前2年くらい前だったと思う、NHK特集で取り上げられた「北へ555」というタイトルで紹介されたドキュメンタリ番組で当時見た人も多いと思うが、このレースを企画実行した人が今回も企画実行したのである。私はレースと書いたが、企画者は遠足と称しているこのテレビ番組は、北の大地北海道襟裳岬をスタートし、帯広、富良野、旭川から宗谷岬までの555kmを7日で走破するというものである。

 1日60km〜100km、平均走行時間は13時間にも及び、その日の宿泊場所だけが提供され、後は一切参加者自身で用意しなければならない。テレビで見た限り参加者は全て中高年の人達だったと思う。経験した人にしか解らないであろう過酷なこのようなレースは、耐えることを知らない若者にはきつい事と思う。当時この番組を見た私は強い感動を覚えたもので、ビデオに収録しておいたこの番組をのちに山岳耐久レースの前夜に見て励みとしたものだ。ジャーニィランと名付けられたこのレースは、今では北海道から京都まで日本各地で行われ、ここ奥久慈では距離こそ2日間で120kmと短いが、20kmの山岳地帯を含むと言うことで、特にアドベンチャーランと名付けられている。レースと言っても参加者は競争するという意識はなく、与えられた地図を読み、自分の足だけでゴールを目指し、自己の気力、体力を確認するという遊びなのである。

   5月26日の朝、水戸の山用品店の「ナムチェバザール」に参加者は集合した。受付を済ませ今日明日の2日間の行動中は一切自己責任で行う旨の誓約書にサインし、その時に地図を渡された。参加者は北海道札幌から九州の福岡までの29人で、地元であるということで茨城県からは私を含め3人の参加者がいた。

 午前10時関係者のカウントダウンと共にスタートした。まず最初は近くの旧跡である「格さんのお墓」そして「愛宕山古墳」を訪ねる。市街地の迷路のような細い道を地図を頼りに進む。道は国道118号を水戸市から那珂町に入り第1のチェックポイントに着いた。ここは地図上に「馬力神」と書かれ小さな石碑がおいてある所で、注意してないと見過ごしてしまうような所である。道は瓜連町に入り、第2のチェックポイントに着いた。ここは水郡線の高架上にある。大宮町に入り第3のチェックポイントは道路上にある大宮駅入口の看板だった。その後第4のチェックポイントでここは袋田の滝25kmとしか書かれていないが、これは道路標識であった。道は山方町に入り、右手に久慈川の流れが見えてきた。   第5のチェックポイントはわらぶき屋根の家と書かれている。この辺わらぶき屋根などいくらでもありそうだなんて思っていたが、道路上でハッキリ確認できた。

   第6チェックポイントは道路脇にある「紙の里資料館」。腹が空いたのでコンビニに入り、ウィーダを2つ買いあっという間に腹に収めた。こういう時は固形の食べ物よりもゼリー状のものはおいしく腹に入る。第7チェックポイントは木の橋(平山橋)と書かれている。ここは国道から別れ、水郡線の下小川駅方面に入る旧道上で久慈川にかかる古い橋であった。ここにはエイドステーションと呼ばれるサービスが設けられていた。ここにはナムチェバザールのオーナーで周りの人たちから会長と呼ばれている和田さんやその家族、そしてクルーと称するボランティアの人たちがいて、到着した我々に飲み物や食べ物を提供していた。後で聞いたのだがこの会長さんは県内に沢山の店舗を持つスーパーのオーナーであり、人形店等も経営し、黄門祭りなどの各種の行事の実行委員長なども務める水戸商工会議所の重鎮でもあるのだ。

 汗まみれの身体で川の流れを見ると飛び込みたくなる。道路上には盛金富士ハイキングコースと書かれた大きな立て看板があった。再び国道118に戻り、大子町に入った。道路の上に男体山登山口と書かれた標識があった。ここは篭岩や湯沢源流などへ行くときに車を止めさせて貰う佐中の最奥の民家へと通じる道である。第8チェックポイントは菖蒲で有名な長福寺となる。ここでは寺の境内から墓地を通り抜け118号に戻った。遠くで雷鳴が聞こえ同時にぽつぽつと落ちてきた。第9チェックポイントは「こんにゃく関所」と名付けられ、大子地方の特産である蒟蒻料理を食べさせる店である。雷の光る中雨が降り出してきた。汗でグチャグチャの身体にこの雨は心地よく感じられる。

   ルートは国道118号を右折し袋田の滝や里見方面に通じる道に入りまもなくこの道を左折し、おみやげ物店のならぶ通りに入り、ここにもエイドが設けられていた。ここで135ミリリットルの缶ビールを一気に飲み干した。その味の美味いの美味くないの・・・。想像していただきたい。時間は5時近くだが雨模様の空と周囲を山で囲まれた環境のため薄暗くなっている。売店のおばさんが今から月居山抜けて月居温泉に行くの、登山道は急でしかも降り続く雨で滑るし危険だよ、と心配している。それでも我々の後にこれからまだ10人を越える人たちが来るのだ。その人達のことが心配である。

 第10チェックポイントは入場料100円を払って中に入る袋田の滝である。滝を見るために作られた観瀑台で袋田の滝を前にチェックした時間はちょうど5時であった。このあと滝のすぐ下流に架けられた吊り橋を渡り、道は木の階段をつけられた急な登りとなった。前に一度歩いたことがあるが、こんなにも急な階段という意識はなかった。水戸から走り続けなお、急坂を登り続けられる足に感謝しつつ山頂に向かった。本日最後の第11チェックポイントは月居山下にある月居観音。そして今日のゴールとなる「月居温泉滝見の湯」に着いた。時間は5時54分で順位は15番目くらいと記憶している。今日一日の行動時間は7時間54分であった。

 疲労困憊した身体を露天風呂に長い間沈めて感謝した。明日は大丈夫だろうか、この疲労感はどう残るだろうか。相変わらず小雨が降り続いているが、露天風呂から竹で組まれた塀越しに見た真っ白いヤマボウシの花が周りの緑と対比して素晴らしかった。今日の制限時間は午後7時30分であるが、このあとの45分から食事時間となっている。食堂には参加者29人全員とクルーの人たちを含め40人近い人が集まっていた。今日一日の行動中ずーっと頭から離れなかったビールの飲める時間である。多くの人は過去のレースで顔見知りが多いらしく、あちこちで歓談の輪が出来ていた。その中にはシルクロード2400kmを靴底にゴムタイヤを付けて一足の靴で走り通した人とか、3週間前に国内で行われ名古屋〜金沢間270kmを走る「さくら道ウルトラマラソン」というレースを30時間という新記録で優勝した人、有名な「サロマ湖100kmマラソン」を9時間台で走り抜いた北海道の女性、はたまた世界中から好き者が集まりギリシャのアテネからスパルタまで246kmを36時間以内で走る「スパルタスロン」に参加した人など、私にはまるで魑魅魍魎の世界の話に感じられた。

 ナムチェバザールの和田さんを取り囲んで7〜8人の輪が出来ていたので、私はそこへ入れて貰った。和田さんは過去に三浦雄一郎と山を歩いた話しや、チョモランマ登山隊に参加しベースキャンプまで行った話などを話してくれた。日本百名山は今年中に完登しそうだとか。酔いが回るに連れ本気で海外登山の計画を相談し始めた。

   2日目は月居温泉を朝の4時30分スタートである。温泉の裏から民家の間を通り農道から山に入った。早朝から怪しげな集団が通り抜けるので、周りの犬という犬が一斉にワンワン吠えまくっている。第1チェックポイントは水根沢竹藪。美しいブナの新緑が見られた。第2チェックポイントは男体山山頂。第3チェックポイントは鷹取岩。ここから道を間違えてしまった。第4チェックポイントは不動滝。大子町から水府村に入り、ウツギ、ヤマボウシ、白いホタルブクロ、第5チェックポイントは亀が淵。第6チェックポイントは竜神吊り橋下。11時10分に着いた。ここからは残り40kmでフルマラソンとほぼ同じ距離である。第7チェックポイントは東金砂神社大鳥居。第8チェックポイントは水府村役場。第9チェックポイントは二十三夜石碑看板。

   金砂郷町に入り山田川添いの農道を通り第10チェックポイントは岩手橋。残りは20kmちょっととなった。二人で走ったり歩いたりしながら、残り5kくらいになったらもう酒飲んでも行けますね、なんて冗談で話していたら、じゃあそうしましょうということになり、残りあと1kmになったら道路沿いにある酒屋でビールを買ってそれを飲みながらゴールしようということになった。こんな事も一つの励みとなるのである。第11チェックポイントは鹿島神社。再び瓜連町に入り第12チェックポイントは瓜連Y字分岐。那珂町に入り第13チェックポイントは常磐道高速下。水戸に戻りゴールのナムチェバザールに、途中買った缶ビールを高々と掲げながらゴールした、時間は5時36分であった。