第10回日本山岳耐久レース

 10月13日の秋晴れの体育の日、今年で第10回の記念大会となる日本山岳耐久レースの会場となる、あきる野市に向かう。私自身今回で連続5回目の出場となるが、今年はHCのんびりから古市君が初出場するとのことで、多少なりとも心強さを感じての参加である。 
あきる野市役所で装備品のチェックなどの受付を済ませ、体育館に向かう。私の都合で古市君とは日立から一緒に来ることはできなかったが、彼は一足早く会場に来ていて、体育館の入り口近くに場所を確保していた。館内にはすでにたくさんの人が来ており、足の踏み場もないほどである。今年は参加人数が多いようだ。最近は山岳レースが増えているようで、ロードを走っている人の中にも自然の野山を走ることに、興味を持ち始めている人が増えているのかもしれない。係りの人の話では1500人位のエントリーがあったようだ。

 今回用意した食料はおにぎり5ヶ、ウィーダー3ヶ、大きなせんべい5枚、スーパーで見つけたハイキングなどのお供にと書かれた乾燥した梅干し、それに家で子供が持っていたレモンのキャンディをちょうだいしてきた。水はエネルゲン水1リッターと水2.5リッターで、ほぼ例年と同じ内容となった。
体育館内の混雑を避け、スタート地点となるグランドに出た。今日はだいぶ暖かい。夜はその分放射冷却で冷えるかもしれない。

 午後1時スタートする。古市君とは少しの間市街地を一緒に走ったが、山道に入ると離れてしまった。
例年とほぼ同じ17時23分に第一関門の浅間峠に着いた。ここでスタート後初めて腰を下ろし休憩を取る。あまり食欲はないがおにぎりを食べ、ウィーダーを口に流し込んだ。
このあとロングパンツをはき、ヘッドランプをつける。ここからは闇の中のレースとなり、気を引き締める。5度目の参加となると先の目標を設定でき、苦しいところもわかるので、それに対処するための心構えができるようになった。このため何も知らずに行動していた頃と比べ気分的に楽である。次の目標は全ルートのほぼ中間に位置する三頭山で、この山は延々と続く山頂への登りは苦しいだけの記憶がよみがえる。第一関門では3分くらいの休憩を取り再びレースに戻る。
樹林の中の登山道は闇に包まれ、ヘッドランプを点灯しての行動となる。時折他の参加者とついたり離れたりしながら行動することはあるが、ほとんどは前後に人のいない単独での行動となり、絶えず眠気がつきまとう。

 道はアップダウンを繰り返しながら、やがて三頭山につながる長い登りとなる。この登りではさすがにほとんどの参加者がペースダウンするため、前後に参加者のヘッドランプの明かりがゆらゆらと、まるで大きな蛍が群舞しているがごとく見える。ここを登れば休める、水もゆっくり飲めると自分に言い聞かせながら、立ち止まることなく歩き続ける。おそらく全員が同じような気持ちで歩き続けていることと思う。やがて上の方から「お疲れさまです。三頭山山頂です」という東京都山岳連盟の女性の声が聞こえると程なく山頂に着いた。時間は22時29分。今日は新月の頃であろうか、左上が少し欠けた月が輝いている。去年の三頭山はガスが発生し気温も下がり、震えながら防寒具兼用の雨具を着たが今年は寒さを感じない。あせでぐしゃぐしゃのTシャツもいつか乾いていた。ここではおにぎりとウィーダーをとり、せんべいをかじった。ここまで来ると第二関門の給水ポイントが見えてくる。ここでたっぷり水を飲んだ。乾燥梅干しを口に入れる。うまい。再びレースに戻る。

 小河内峠を少し過ぎたピークを通過した。ここは展望のよい場所で、奥多摩の山々の稜線が月明かりにくっきり浮かび上がり美しい。何人かが月明かりを受けて座り込んでいた。
もしこの先も何年かこのレースを続けることができたら、いつの日か時間を気にせず、こういうところでのんびり休みながら24時間レースを楽しみたいと思う。

 小河内峠から御前山への登りもすごく長い。やっとの思いで登り切ると今度は大ダワへの長い急な下り。それでも今年は例年に比べ登山道が乾燥しているようでスリップする回数が非常に少ない。  
やがて大ダワに着いた。ここで少しの間腰を下ろし、水を飲みすぐ出発する。次の目標は大岳山だ。
いくつかのピークを越え、岩場を登り大岳山に着いた。大岳山頂上空は満天の星が輝いていた。つい最近子供と見たプラネタリウムを見ているようだ。ここでも腰を下ろした。
後続の二人がこの空を見て、感嘆の声を上げていた。同じ東京でありながら、都心では絶対に見ることのできない素晴らしい星空だ。

 やがて御岳山の第三関門に着いた。時間は午前3時43分。ここはいつものようにチェックを受けてすぐ通過する。御岳神社の石段を下り、土産物屋が建ち並ぶ狭い道を通り抜け、再び日の出山への山道に入る。日の出山山頂下に都山岳連盟の人がいて、これから6人抜くと順位300番以内に入るという。これまで順位など気にしなかったが、それでもがんばってみようという気になる。日の出山頂では腰を下ろして水だけ飲みすぐ出発した。

 道は距離約10kmの金比羅尾根に入る。ここまで来るとこれからは多少のアップダウンはあるもののほとんどが下りで、この先はゴールという期待感がわき、ついつい足も動き出してしまう。日の出も近いようで周囲の明るさも増してくる。途中何人か抜き去った。

 尾根道も終わりに近くなり、周囲の明るさとともにヘッドランプの明かりを消した。山道を抜け住宅街に入る。大きな疲労感とともに今年もゴールできたという満足感が全身を包む。そして拍手で迎えてくれるうれしいうれしいゴール。

 午前6時6分、昨日の午後1時にスタートしてから17時間6分後に、順位288番でゴールした。この後荷物の置いてある体育館に入りそのまま眠り込んだ。10時頃目が覚めると昨日のスタート前は、参加者の荷物が体育館内に所狭しと置かれていたが、この時間になると、ゴールした人やリタイアした人たちが立ち去ったのであろう、荷物もだいぶ少なくなっていた。

 古市君を迎えてやろうという気になっていた。そのままゴール地点に行く。ポツリポツリとゴールに人が入る。Vサインをしながら全身で喜びを表している人、いかにも疲労困憊の様子でにこりともせずゴールする人、様々なゴール風景が続く。この間にもリタイア者を運ぶマイクロバスやワゴン車が到着する。車が着くたびに古市君がいないか探すが、彼はまだがんばっているようだ。ポカポカした陽気で再び眠くなり、ゴール脇の芝生の上で眠る。12時近くに目が覚めた。彼はまだ着いてないようだ。

 12時を過ぎ制限時間の午後1時も近づいてくる。山の中でさまよっていないか、携帯の番号を聞いておくべくだった。そうこうしているうち、制限時間の25分前の午後12時35分、来た。いかにも疲れ果てた様子で、にこりともしないでゴールをくぐった。完走賞と完走Tシャッを受け取り私と会うと、最初に来年はもうやらないと言った。

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