第11回日本山岳耐久レース

早いもので「のんびり」に入り、山歩きのトレーニングのつもりで始めたこの山岳レースも今回で6回目と回を重ねた。

今年は山こそ、そこそこに歩いたが長い距離を走るためのランニングはほとんどできなかった。1ヶ月前のトレーニング山行のつもりで走った日立アルプスでは膝や股関節に軽い痛みが走り不安が残った。一年一年確実に年を重ねる加齢と少々の体重増加に加え、トレーニング不足という決定的な不安要素があり、今年はいつになく心配だった。

今年の参加者は全国から1700名を越えるエントリーがあり、男子最高齢76歳、女子最高齢71歳である。最近はロードを走るランナも、自然の中を走るこのような山岳レースに興味を持つようになったようで、山間部など自然の中を走るレースが増えている。このような大会はランニング雑誌などにも紹介され、ロードランナの参加が多くなっているようだ。参加者の増加によりスタート時の位置取りでその後の展開に大きな差ができる。スタート後まもないグランド出口のゲート付近ではマラソンのスタート並みの混雑であった。山に入っても渋滞は続き、道幅の狭い登山道では前の人を追い越すのも難しくなる。一人二人追い越したり追い越されてもあまり意味がないので流れに乗って行動することにした。今回は地元あきる野市の市長選挙があり、本大会の開催日が例年より2週間遅れている。いつもは第一関門で休憩し、ここからヘッドランプを装着していたが、今回は第一関門に行き着く前に日没となりヘッドランプをつけた。スタート後23km地点の第一関門に着いた。ここは日立アルプスとほぼ同じ距離で、時間は昨年より30分遅い。ここで初めての大休止を取る。膝に違和感を覚えていたのでバンテリンを塗り込み、半ズボンの上にタイツをはき、おにぎりを水で流し込む。大休止といっても5分も休まずすぐに出発した。第一関門を過ぎるとストックを使用することができる。今年から安全のためにストック使用が第一関門以降と決められた。狭い登山道に連なって走るため、ストックが前後の人に当たることを避けるためで、第一関門まではザックに取り付けて行動することを義務づけられた。私も今回初めてストックを持参した。

寒さも増したようで、これまでザックに詰めるだけでほとんど着たことがないゴアの雨具を着込んだ。雨具といってもウィンドブレーカと同じで風を遮断する。しかし激しい運動をしているため体温は上昇し、すぐに汗が噴き出してくる。雨具を着たり脱いだりを何度かくり返した。中間点の三頭山を通過し、午後1116分スタート後42km地点の第2関門に着いた。昨年より40分遅れている。ここで初めての給水を受ける。気温が低く発汗が少ないせいか1リットル近い水が残っていたが、1.5リットルの給水を受け、おにぎりを流し込んですぐに出発した。夜も更けてきた。今夜は曇り空で月明かりがない。長い長い暗い尾根歩きが続く。今回も登山道で寝込んでいる人を何人も見た。私も眠気に耐えきれず座り込んだ。濡れたTシャッで体温が急速に奪われる。座り込んで目を閉じると深い眠りにつきそうで怖い。それでも5分くらい寝たかも知れない。再び起き出し行動に移る。あいかわらず御前山への登りにはうんざりしてくる。やっと山頂に着いたと思ったらこれから鋸山下の大ダワまで高度差400m以上の下りとなる。大岳山を過ぎ午前4時46分第三関門に着いた。去年より1時間遅れているがここまで来ると今年も完走できると確信する。遠くに都心の明かりが見える。寝静まった御岳山神社参道を通り日の出山に向かう。山頂でベンチに腰掛け水を飲んですぐに立ち上がる。ここから延々9kmと続く金比羅尾根に入りゆっくりと走り出した。まもなく日の入りとなり樹林の中ときおり陽光が差し込む。間もなくゴールできる、大きな疲労と共に充実感が体中に充満してくる。午前7時27分、スタートから18時間27分という、3年前のベスト記録から3時間ほど遅い記録ではあるが、6年連続の時間内完走を果たすことができた。

   始めに書いたように私は今回初めてストックを使用した。本大会に参加して6回目、毎回多くの参加者がストックを使用しているのを見て、ストックはどれほどの効果があるのだろうかと気に掛かってはいた。しかしこれまではまだ自分の足で奥多摩の山中71.5kmを制限時間内に走り、歩き通すことができるという自負があった。しかし山岳レースとなると普段の山行に比べより強い身体強度と精神力が要求される。今回はトレーニング不足からくる身体強度を補うためにストック使用を思いついた。ストックは今年の5月に購入したもので、最初に使ったのが8月末の飯豊連峰石転び沢だった。雪渓を登るにはピッケルかストックか迷ったが、時期的にストックでもいいかなと考え使ってみた。この山行では雪渓の歩きはもちろん梅花皮小屋から梶川尾根の下りではストックを活用し効果を実感することができた。このためこの飯豊の使用感から今回の奥多摩では初めてストックを使うことにした。
全コース中第2関門から金比羅尾根を下るまでの距離50km近いバリエーションに富んだ登山道でのストック使用は効果的なものであった。

  ストックは登山道でのランニング中や歩行中の推進力、段差がある登りでの体を持ち上げる力、下り斜面での転倒滑落防止、下りの急な段差での膝に掛かる力の分散など優れた効果があることが確認できた。またこれらの効果を得るためには、バランスのいいダブルストックが必要である。足が悪くなった人が歩行補助のために使うには杖のような使い方として1本で良いが、十分歩ける人が山歩きのための補助とするためにはダブルストックのほうがより効果的と思う。ストック1本ではどうしても重心がストックの方に偏ってしまい、バランスが悪くなる。

  私は登山ではまだストックを使用しようとは考えてはいない。しかしこれから先、足に不安を感じるようになれば積極的にストックを使用してみようと思う。正しい使い方をすれば、十分自分の足の補助になりえると感じた。またこの奥多摩の山岳耐久レースでは、今後も参加するとすればぜひストックを使用するつもりである。

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