三面から朝日連峰縦走
平成19年10月5日〜7日
  奥三面ダム→三面小屋→道陸神峰→大上戸山泊場(幕営)→大上戸山→相模山→北寒江山→寒江山→竜門山→西朝日岳→大朝日小屋(幕営)→大朝日岳→平岩山→北大玉山→角楢小屋→大石橋駐車場
  

「三面コースは朝日連峰内でも際立った原始性を保っている」「平家の落人伝説とマタギ文化が語り継がれた三面の集落は今はダムの湖底に沈む」と山渓のアルペンガイドに書かれているこの三面からの朝日連峰縦走は、いつかは歩きたいと考えていたルートの一つだった。おそらく年間数組しか歩かないだろうこのルートは、ガイドブックに掲載された簡素な一本吊橋とともに、私の山行意欲を掻き立てていた。

前夜に日立を出発し、小国町五味沢地区から林道終着の奥三面ダム駐車場に着いたのは日の出前だった。ここで少し仮眠し、630分に歩き始める。今日の予定は道陸神峰(どうろくじんぽう)避難小屋か、できればその先の大上戸泊場(おおじょうことまりば)まで行きたい。今回の縦走に使用する1/25千地形図は5枚。熊対策として鈴をザックにつける。昨夜来の雨も上がり雲間から青空がのぞき、これからの山行を期待させる。

奥三面ダムの林道終点は意外と広い 鬱蒼としたブナ林を歩く 林内には倒木が多く、登山道をふさぐ

登山道の右を三面川本流が流れる 恐怖の1本吊橋 これは立派な深沢橋

しばらくは三面川に沿うようにつけられた道を歩く。清流三面川を右に見ながら、左手の平四郎峰から派生した小さな沢をいくつか越える。

ブナの古木が多い森は倒木が多く、ときおり道をふさぐ。今年は木の実が豊作なのだろうか、ブナやトチノキ、ミズナラなどの木の実がたくさん落ちていた。熊との遭遇が心配で、鈴の音とともに時折笛を鳴らしながら歩く。深く切れ込んだ平四郎沢には一本吊橋がある。一本の丸太に一本のワイヤーが架かっただけの簡素なもので、以前ガイドブックに紹介された写真を見たことがある。この写真を見たときには、自分にはこの吊橋が渡れるだろうかと心配だったが、ここに来るときにはもう覚悟を決めていた。下を見たくなかったが、足元が見えないので下を見ざるを得ない。足がすくむ。少し前まではこの縦走路中、三面川を渡り尾根に乗るまでに3本の吊橋があったが、最近はこの平四郎沢の吊橋以外の2本は改修され、立派な吊橋になったようだ。このあと2本目の吊橋「深沢橋」を渡ると程なく三面避難小屋に着いた。


倒木が多い 三面避難小屋 三面川本流橋

 三面避難小屋は想像したよりきれいだった。小屋の前には焚き火の跡があり、その中にはビールの空き缶などが散乱していた。釣り人だろうか。

小屋を離れると三面川に架けられた3本目の吊橋「三面川本流橋」を渡る。これも奥三面には不釣合いなほど立派な吊橋である。この橋を渡ると鎖がつけられた急斜面のトラバースとなり尾根に乗る。ここからは急登の尾根歩きとなる。やせ尾根が続き、汗がふき出してくる。

1148分、鉄板を曲げて覆っただけのような道陸神峰避難小屋に着いた。中には焚き火ができるようになっており、出入り口を覆うためのブルーシートが用意されていた。ここで昼食をとる。これから先はしばらく水が当てにできないので、近くの水場から3リッターの水を汲んだ。


急斜面を登り三面川を見下ろす これでも避難小屋-道陸神峰避難小屋 道陸神峰避難小屋の水場

今日はまだ時間もあるのでこの先の大上戸泊場まで進むことにした。道にはたくさんの野生動物のフンが見られ、深山の生態系の豊かさを感じる。途中、奇妙な鳴き声が聞こえ身構えた。これはニホンカモシカの鳴き声だった。ときおり大朝日岳が見え隠れする。まだまだ遠い。

356分、大上戸泊場と名づけられた草付きに着いた。幕営の用意を済ませ、焼肉と日本酒で早めの宴会となる。夜は満天の星で、天の川もはっきり見ることができた。

朝起きると目の前に端麗な以東岳が朝焼けに染まる。朝食をとり、昨日に続き静かな山歩きが始まる。

熊におびえニホンカモシカに出会った登山道 大朝日岳ははるか遠く 道陸神峰避難小屋からは草が刈られていた

前方に大上戸山から相模山 大上戸泊場-ここで幕営 大上戸泊場の水場-水は流れていなかった

大上戸山岩場 大上戸山山頂 相模山への道

大上戸山の岩場は右手がすっぱりと切れ落ちた痩せ尾根で、足がすくみ立ち上がることができず座って歩いた。このあたりから朝日連峰主脈がはっきりと見え始める


相模山山頂の三角点 主稜線が見え始め、紅葉がすばらしい 善六池手前の草つきを歩く

寒江山が真近かに見え始め、南には飯豊連峰の長大な山々が見える。三面の山案内人の名から付けられたという善六池、源蔵池、そして三方池と続く池周辺は草もみじに変化し、森林限界を超え生長が抑制されて矮小化されたカエデやナナカマドなどは鮮やかに彩られていた。昨日から今日まで誰一人行きかうことはなかったが、主脈縦走路の寒江山山頂には数人の登山者が見える。


善六池 ガッコ沢の残雪 源蔵池

北寒江山手前の紅葉 寒江山への主稜線が見える 三方池

1138分、北寒江山に着いた。山頂には男女6人のパーティが休憩していた。ここで昼食のラーメンを作り、主脈縦走路を大朝日岳に向かって歩く。ここからの道は素晴らしかった。紅葉の始まった木々と、まさに朝日連峰の重厚な山岳展望が終始展開する。鮮やかな紅葉が茜色に染まり始める頃、大朝日岳手前の中岳山頂に立つ。ここを下った少し先に大朝日小屋がある。小屋手前の名水「金玉水」を飲み、今夜の食事のための水を詰める。小屋付近には残照を楽しむ宿泊者だろうか、沢山の姿が見られた。

56分、大朝日小屋に着く。小屋は満杯で幕営することにした。この夜は冷え込み、宴会も早々と終え、シュラフにもぐりこんだ。


北寒江山山頂 寒江山に向かう登山道の紅葉 寒江山に向かう

寒江山山頂 竜門小屋と竜門山 竜門小屋への道

西朝日岳への道 西朝日岳山頂と遠方に朝日岳 朝日岳への道

朝日岳への道 朝日岳への道 朝日岳への道

朝日岳手前の名水、金玉水 大朝日小屋と大朝日岳 大朝日小屋とテント場

翌朝、ざわざわとする人の声で起きた。ご来光を見ようという人たちがテン場の中や、付近に集まっている。北に月山や鳥海山、葉山がはっきりと見える。東には蔵王連峰、南は吾妻連峰だろうか。霜柱ができており、昨夜は氷点下になったようだ。この付近はいつ雪が降ってもおかしくない。


大朝日小屋からのご来光 大朝日小屋から右に月山、左に鳥海山 大朝日岳山頂

633分出発。10分後に大朝日岳山頂に着いた。ここからの360度の展望は素晴らしかった。思い出せば2ケ月と少し前、あの猛暑の中、大玉山から祝瓶山の縦走路の草刈をした尾根道も見える。ここからは平岩山、北大玉山そして角楢小屋から大石橋駐車場まで長い下りとなる。

130分、今回の縦走中7つ目の吊橋となる大石橋を渡り駐車場に着いた。心地よい疲労感に包まれた、久しぶりの充実した縦走山行を楽しむことができた。


登山道から前方に長大な飯豊連峰 北大玉山山頂 北大玉山から角楢小屋に向かう登山道