飯豊連峰・石転び沢〜御西岳 

梅花皮岳(2005m)・烏帽子岳(2018m)・御西岳(2013m)
山行期間 平成12年6月23〜24日 小屋泊縦走
11月3日(金) 飯豊鉱泉〜御沢登山口 (3:30→) 地蔵山(1:30→) 三国岳(2:00→)切合小屋(0:20→)草履塚(1:40→)飯豊山神社(0:15→) 飯豊本山(1:30→)御西岳(1:30→) 大日岳(1:10→)御西小屋 
   ( )内は参考コースタイム

6月23日(金)  飯豊山荘(0:30→) 温身平 (2:00→) 石転び沢出合(3:30→)梅花皮小屋(北股岳往復0:45) (1:00→) 烏帽子岳(1:00→) 御手洗ノ池(1:15→) 御西小屋
   ( )内は参考コースタイム


 
今回の山行1週間前の日曜白、のんびりの仲間たちとの鬼怒沼への山行を終え、自宅で一風呂浴び、ビールを飲みながら心地よい疲労感にひたり、うとうとしながらテレビのニュース番組を見ていると、ヘリコプターが山の急斜面のあちらこちらに残る雪渓の上をホバーリングしているのが見えた。どこかの山の救助訓練かと思いながら眠り込んでいた。翌月曜日の新聞を開くと1面トップで新潟の浅革岳で、遭難者収容中の山岳救助隊員が雪崩に遭い、4人死亡の記事。今週登る予定の飯豊山石転び沢雪渓も標高差700m、距離3Kmという長大な雪渓で落石も多いということで、多少の不安感を覚えた。

 6月23日午前1時半30分自宅を出発、須賀川から東北自動車道に入り福島飯坂で国道に戻り、6時30分飯豊山荘脇の登山口駐車場に着いた。7時5分登山届けを出し、小雨が降り続く登山道を歩き初めた。広い登山道の両側にはピンクの可愛らしいウツギが咲き、その奥にはブナやホウの落葉樹林帯が続く。沢の水音も加わり、いつもながらわくわくした気分にさせてくれる。

ダイクラ尾根との分岐点を右折し、いよいよ登山道らしくなってきた。しばらく沢沿いに歩く。展望の良い温身平を過ぎ、二つ目の大きな堰堤にかかった。十分な川幅と落差、豊富な水量からはミニ、ナイアガラの滝を思わせる。そして堰堤には雪解け水が流れ込み、美しい水中からは、立ち枯れた木が上高地を思わせる。時折小さな沢を横切り、快適な登山道が続くが、ほどなく石転び沢に出る。後で聞いた話だが、登山道から雪渓歩きとなる場所は、雪解けとともに変わり、今年は雪が多く例年と比べ、雪渓歩きはだいぶ下の方からだとのこと。

8時7分雪渓に入る。すぐアイゼンを装着した。何カ所かぽっかりと雪渓が口を開け、水が轟々と音を立てて流れていた。あの中に踏み込んだらどうなるのか。できるだけ遠ざかって歩こうと思うが人の踏み跡がない。初めての石転び沢雪渓。沢であるからこの雪の下には川が流れているのだろうか。もし雪解けが進んでいる場所で、川に落ちたらと考えると怖い。広い雪渓上で人の足跡を探すが、なかなか見つからない。これも後でわかったことだが、いくらたくさんの人が歩いても、ひとたび雨が降れば、雪の上では足跡はすぐ消えてしまう。雪が多いため、この沢に入り込む大小全ての沢は雪渓となっている。

途中休憩している3人組に会った。彼らは石転び沢とは別の門内岳を登り日帰りの山行で、「石転び沢は落石も多く、急斜面で大変ですよ」と言う。沢の分岐で彼らと別れ一人歩き続けるが、勾配も徐々に角度を増し、足が止まりがちになる。斜面の右上のほう、白い雪の一部が黒くなっている。あれは何だろうと思いながら歩き続けると、ガラガラという音と共に小規模の落石が発生した。その場所は先ほどから気にかかっていた黒い斜面からだった。あそこが落石の巣。石がバウンドしながら落ちてくる。雪の上に残る石や、前方の斜面の岩の状態を確認し、あらかじめ左よりの斜面を歩いていたので、難を逃れたが、無防備に歩いていたのでは危険だ。

斜面も急になり、雪面のあちこちにできているクレバスを避けるため、右に左にと進路を変える。時にはクレバスの脇1mくらいの所を登らねばならず薄気味悪かった。このクレバス帯を通過すると斜面はもう見上げるようになる。上部はどこまで続くのかガスで確認できない。雪面はアイスバーンではないが滑り落ちたら少しの間止まらないだろう。やはりピッケルを持ってくるべきだったか。この急な斜面を登るとガスの中、ぼんやりと建物らしきものが見えた。梅花皮避難小屋だ。

  11時10分梅花皮避難小屋着。誰もいない。ここで休憩しよう。なれないアイゼン歩行を続けたためか、足に疲労感があり、靴を脱ぐにも足が攣る。小屋の窓から辺りを見回すが、ガスで何も見えない。初めての山でこのまま山行を続けるのは危険が多い、小屋で休みながら様子を見よう。休憩しながらも先へ進みたい思いで、小屋の窓から周囲を見回すが、相変わらず視界はほとんど得られない。2時間近く経ち、ガスが少しずつ消え、やがて前方すぐ前に、梅花皮岳の姿が見え始めた。

1時5分梅花皮小屋発。ここで予定していた北股岳への往復を取りやめ、とりあえず今夜の宿に予定していた、小西岳にある小西岳避難小屋をめざす。小屋を出てすぐ一面のお花畑。ハクサンイチゲの大群落、その中にミヤマキンポウゲ、水滴がキラキラ輝いているエーデルワイスのヒナウスユキソウ、コイワカガミそしてクロユリも咲いている。そのほかにもたくさんの花。一面のお花畑でこれがずーっと続く。写真を撮りたいがザックカバーをしているし、相変わらず小雨が降り続いているため、カメラを出す気になれない。頭の中に記憶しておこう。廻りはまだまだ冬山の趣を十分に残した山そして山。集落など見えない。東北を代表するこれら飯豊や朝日連峰にはたくさんの魅力がある。こういう山を深山というのだろう。それだけこれらの山の頂に立つのは容易ではなく、旅行会社のツアーハイキングの対称にはなりにくいだろう。静かな山行が楽しめる場所でもある (それでもシーズン中は混雑するようだが)。白い花の大群落の中、コバイケイソウが夏の出番を待ち遠しそうに、あちらこちらにめだつ。シラネアオイもたくさん咲いている。先ほど登ってきた石転び沢雪渓も雲海で今は見えない。

梅花皮岳を過ぎると登山道は雪の上となった。右手に稜線を見ながらの歩きとなる。こちらは風下になるのだろう、膨大な量の雪を蓄えた雪庇の上が登山道となっているのだ。左手少し先は急斜面となっていて、のぞき込むことはできない。場所によっては雪庇に大きなクレバスができ、その深さは最大で10m以上にも達するだろう。雪の上は道を間違えないよう、人の足跡を探しながら歩いた。ほとんどの足跡は雨によって消され、わずかに残るアイゼンの跡が頼りである。時折ガスが薄くなることがあるが、この時地図を出して周囲を確認する。地図も雨に濡れてきた。タカネザクラが一面満開で、その先にはピンクの蕾をたくさんつけているところもあった。道を2度ほど間違い、コースを誤ってしまった。それでも一時ガスが引いて、遠くに青空さえ望めたことがあり、明日の山行を期待させたが、そのガスもすぐ再びあたりを覆っていた。

笹薮の登山道に入り込んだとき、ここでは本当に参った。雪道から稜線上に道が見えたとき、ここから雪のない正規の登山道と喜びつつ歩き始めたが、道がだんだん狭くなってきた。それでも進むと深い笹薮。かろうじて細い1本の道を歩いたが、それも途中で消えた。ここは沢山の人が迷い込んでできた、いわば迷い道なのである。この時はここでビバークかとさえ思った。また別なところでは雪道から右手稜線上を見ると、踏み跡らしきものが見えるので、上に登ると1本の細い踏み跡。しばらく進んで前方を見渡すと尾根が下がっている。あわてて地図を確認。90°違っている。右手を見る。ガスの中ぼんやりと稜線が伸びている。あの山だ。足跡の全くない真っ白な雪の上を戻る。一面雪の急斜面、底が見えない。滑落したらどこまで落ちるのか。地図が濡れ見にくくなってきたが、つくづく地図の重要性を感じる。雪のない時期に歩くのであれば登山道ははっきりとしていて、要所には標識があることだろう。しかしこのような雪とガスに阻まれた状態で、初めての山を歩く場合、十分な注意が必要となってくる。そんな中歩き続けて、ふと前を見ると薄ぼんやりと建物らしきものが見える。あれが小西小屋だ。まさに忽然と現れたという感じで、大きな安堵感を感じる。着いた、すぐ前方あと30mくらいだろう。

小西岳避難小屋4時10分着。今日は予定ではここから大日岳を往復するつもりだったが、この天候では無理をせず、今日の行動終了。無人の小屋で今日の1日を思い出しながら、しばらく一人でぼーっとしていた。無線機を出しラジオをつけてみるが入感なし。天気予報が知りたい。7時現在気温13°、気圧795ヘクトパスカル。低気圧が上空を覆っているようだ。明日も停滞だったら、無線で家に連絡しなければ。無線の電池は大丈夫だろうか。食料はたくさんあるが水が2.5リットルで心配だ。小屋にいるうちは安全なので天気の回復を待つのみ。

5時30分頃から飲み始めた。まだ外は明るい。この小屋は梅花皮小屋と違い古い。しかし古いけれど掃除が行き届いている感じでゴミーつない。風もなく静かだったが急に激しい雨の音が聞こえ始めた。無線機のスイッチをすぐに切った。もし明日もここで停滞するようなことになれば、無線機を使うだろう。電池の残量も心配だ。この小屋は2階建てで30人くらいは泊まれるだろう。誰か他にこないかな、なんて考えていると、すごく小さなネズミがチョロチョロ。私以外の生き物を見つけホッとした。こんな所にもネズミが、そういえば登山道のこの途中でヒルが2匹、カタツムリ、カメムシ、それにヒキガエルも見た。ラジオは全然聞こえないが、アマチュア無線が活発に聞こえる。しばらく東北弁の会話を楽しむ。時々外でガサガサと音がする。人が来たのかと思うがどうもネズミのようだ。時折雨音、天気予報が聞きたい。午後7時を過ぎた。まだ外は明るい。雨が降り続ける。風も強そうだ。明日はどうなるか。明日はガスさえなければ雨でも風でも行こう。会社から戻ってからの夜はあっという間だが、こういう夜はやたら長い。そうこうしているうち、疲れからか自然に眠りについたようだ。



6月24日 (土)  御西小屋 (大日岳往復2:30)(1:30→)飯豊本山(0:15→)
      飯豊山本山小屋(0:15→)飯豊本山 (1:30→)宝珠山(2:30→) 千本峰
      (2:20→) 桧山沢出合(1:00→) 飯豊山荘

  
翌日5時に目が覚めた。風の音がビュービューと聞こえる。小屋の窓からは期待した青空は見えない。外に出てみると一面ガスで真っ白。小屋に戻りシュラフに潜り込む。昨晩はシュラフにはTシャツとセータ1枚で潜り込んだが寒さは感じなかった。明日の日曜日もこういう状態だったらどうしよう。地図で確認すると水場はこの小屋のそばにある。視界が良いときにこの付近を見渡せば、おそらく水場の標識があるだろうが、このガスでは全く無理。水も心配になってきた。昨晩食事とウイスキーの水割りに使ったから、残りの水はあと1リットルちょっと。食事にでも使ったらすぐになくなってしまうだろう。行動中の水は雪でも良いが。

11時外はまた雨が降り出した。風も強くガスも相変わらず。時間は昼の12時。相変わらず雨が降り続き視界もほとんど得られない。また気圧も昨日から変化が見られない。低気圧が停滞しているのだろう。
 廻りを見てふと気が付くと、ここの小屋に入ったドアの所には「山のゴミは持ち帰ろう」新潟県の張り紙、小屋使用料納先には山形県、そして注意事項が書いてあり緊急連絡先には福島県の人に住所と名前が書いてあった。これらの各県に隣接する山だから、管轄があちこちになっているのか。

 無性に家が恋しくなる。無線で地元の人と交信し、天気を確認したが、今日も明日もこんなもんでしょうと言う。そして私の予定していた、小西から飯豊山それからダイクラ尾根を下るコースは、雪が多く、道を見失いやすいので、初めての人はこの天気ではやめた方がよいと言う。私も視界がほとんどきかない濃霧の中、歩き回るという危険を冒したくない。このため今日中に、梅花皮避難小屋に戻り、明日下山しようと決めた。
 2時、相変わらずの天気の中、梅花皮避難小屋めざして小西小屋を出て、5時過ぎ着いた。
 翌日6時小屋を出て、再び石転び沢を下り8時40分登山口駐車場に着いた。雨は上がり、空はだいぶ明るくなっていた。帰りはサクランボ狩りで賑わう寒河江から、来たときと同じ道を通り、4時少し前自宅に戻った。

 今回の山行では北股岳、大日岳そして飯豊山など行けなくなった。しかし行けなくなったが良い経験をすることができた。次には必ず今回行けなかった、心残りの山々を縦走しようと思う。これほどのいい山だから、楽しみを次回に残すのもいいかも知れない。
 今考えるとこの計画は無謀だったかなと思う。せっかくとれた3日間の連休だからと、梅雨時期の天候の不安定なとき、歩きなれた日立アルプスならこのくらいのガスでも、あるいは暗闇の中でも迷わず歩き通す自信はあるが初めてのこの山では無理は禁物。登山時期とすれば、天気にさえ恵まれればこの時期最高だと思う。
ただし石転び沢はかなりハード。

今回確認した花
ヒナウスユキソウ、ミネズオウ、コイワカガミ、オヤマノエンドウ、ミヤマキスミレ、アカモノ、タカネザクラ、ミヤマキンバイ、シラネアオイ、クロユリ、ウラジロヨウラク、ハクサンイチゲ、アオノツガザクラ、ミヤマキンポウゲ、その他多数