那須連峰 
赤面山(1701m)・朝日岳(1896m)・茶臼岳(1915m)・三本槍岳(1917m)
山行日 平成11年11月14日
   もう10年も20年も前、日立から一番近いスキー場ということで、何度か来たことのある赤面山スキー場に再び来ることができた。しかしまだ積雪のないこの時期、ロッジは閉鎖され、駐車場も入ることはできない。そのためここ那須甲子有料道路上にある2〜3台分の停車スペースに車を止めた。周囲は黄色に染まったカラマツ林でいかにも高原の雰囲気をかもし出し、これからの山行を期待させる。
  7時20分登山開始。無風。空にジェット音そして小鳥の鳴き声。上空雲一つない澄み切った青空。登山道はスキーシーズンにはゲレンデとなるところで、今は大小の石が赤土の上にゴロゴロと置かれている広い急斜面である。霜柱をザクザク踏んで登る。一基目のリフトを過ぎ二基目に入る。相変わらずの急登が続き、汗が噴き出してきた。ここでTシャツ一枚になる。二基目のリフト終点に赤面山登山口の標識があった。登山口前方にはすっかり落葉したブナやミズナラの古木。山登りの気分が高まる。時々地面からカサカサと感じられるような音がする。これがなんと太陽が昇り、気温が上昇し、霜柱が崩れる音なのだ。最初聞いたときはへびかとおもいハッとさせられた。霜どけが進んだ帰りが心配だ。

北東方面には、吾妻の山々がくっきり見える。時間は8時ちょうど。すぐ森の中の登山道に入る。ブナの林の中をしばらく歩くが、やがて植生が変わり周りはダケカンバの林となった。しかしそれもすぐ終わりドウダンツツジ、ウラジロヨウラクやシャクナゲなどの低木樹林帯に変わり、同時に展望が開け、快適な尾根歩きとなった。この登山道に入ると、ブナやダケカンバ、また高山植物など、新緑から初夏の花の時期にかけて一番いい山歩きができると思う。このあたりは那須方面と違い、訪れる人も少ないのであろう、人の足跡全くない静寂の中の登山。先ほどまで聞こえた小鳥の声も今は聞こえない。

 8時24分、標高1701mの赤面山頂に着いた。山頂は最高の展望。風が無い。南西方面に槍のように見える三本槍岳、そしてその右前方すぐ前に前岳。前岳と朝日岳の間にピラミッドのような三角錐の頭だけをのぞかしている須立山、そして三本槍岳のすぐ左に、すぐにわかる外輪山の茶臼岳。ここからは噴煙は見えない。茶臼岳の左側下斜面に小屋が見える。あれがロープウェイ山頂駅だ。また北西方面には飯豊連峰の冠雪した山々が見える。山頂では展望を楽しみ、ゆっくりとした時間を過ごした。今回の山行では赤面山は通過点とだけ考えていたが、日立からすぐ近くでこんないい山があるとは知らなかった。思わず今日はこれだけで帰ってもいいかな、なんて気にさせられたりもした。しかしまだ時間も朝の9時前、これから朝日岳、茶臼岳、南月山それから戻って三本槍岳と、縦走の往復になる。と、計画を立ててはいるが、いつでもどこでも気分次第で戻ろうとも考えているのである。そういうわけで、とにかく次に向けて登山道を歩き始めた。

  この後北温泉分岐で標識を見落とし、中ノ大倉尾根を降りてしまい、途中気がつくまで30分以上のロスをしてしまった。再びコースに戻り、清水平に着くと登山者が急に多くなってきた。ここは木道が敷き詰められ湿原のようだ。すぐ前方熊見曽根及び左手の朝日岳には、稜線上にまるでマッチ棒を突き刺したような感じでたくさんの登山者が見える。朝日岳に向かうと、ハイマツやクマザサなどの植生から、岩だけの山に変わっていく。岩の間からわずかながら噴煙が上がっている。茶臼岳ではなく、このへんでも地下では火山活動が盛んなのだ。

  朝日岳から茶臼岳に向かう展望の良い鞍部で、ソロ登山者と見られる中年の女性が立ち止まり、「うわーすごい」と一言。そのあと突然大声で「ヤッホー」と叫んだ。周りに登山者がたくさんいる中で、なかなか大声で叫べるものではない。この女性に心の中で拍手をした。
 茶臼岳山頂付近は大小ゴロゴロの岩から、あちこちで湯気(噴煙)が上がっている。手を近づけてみると熱い。この山は活火山であり、地中でエネルギーを蓄え、長い年月を経て、またいつか大爆発をおこす日が来るのだろうか。私はこの硫黄の匂いが好きだ。ぬくもりを感じ、温泉を思い出す。

 山頂には沢山の人がいた。一番高い岩に登り周りにいる人の数を数えてみたが、ざっと50人はくだらない。山頂からは今まで歩いて来た山、それから南月山がよく見える。さきほど道を間違い、タイムロスをしたので今回は南月山は登らずに帰ろう、そう考え茶臼岳山頂を後にした。外輪山を一周し、登りと同じ道を降りたが、途中登山者に混じって革靴を履き、買い物袋をぶら下げた人が目に付く。彼らはおそらく観光バスに乗り、ロープウェイで茶臼岳を上り下りし、近くの温泉に泊まるというツァーの参加者だろう。すぐ茶臼岳下の鞍部にある峰の茶屋に着き、ここで昼食を取った。ここから南月山に通じる牛ヶ首に行ってみよう。牛ガ首には茶臼岳の斜面に造られた登山道を行くが、この斜面のあちこちから噴煙を吹き出している。この少し先には無間地獄と呼ばれる、茶臼岳最大の噴煙を吹き出しているところがあった。ものすごい噴煙を上げ圧倒される。それにしてもこれだけのいい所、ロープウエイで山頂を往復するだけでは、知らずに通り過ぎてしまう人もいるのではないか。ここは観光の目玉なのだろう。登山者に混じり幼児を抱いた家族連れや、革靴をはいたお年寄りたちがいた。ここからすぐ先に南月山が見える。行こうか行くまいか迷ったが結局引き返すことにした。

  熊見曽根から清水平に着いた。ここから三本槍岳に向かう赤土の登山道は深くえぐられている。降雨時に雨が沢に流れ出すとともに、踏み跡のある登山道にも流れ、それが歳月を経て、深くえぐられたのだろう。このため尾根歩きといっても大雨の時などこの登山道は川のように水が流れることだろう。今は霜溶けで道はドロドロとなり、たいへん歩きづらい。
 すぐに三本槍岳に着いた。山頂には若い女の子3人がいて、三本槍岳山頂と書かれた標識を首に掛けて、 看板娘などと言いながら記念撮影をしていた。この標識は1枚の板に書かれたもので、ひもが通されている。このため首でも木の枝にでもぶら下げることができ、記念撮影には最適のものだ。こういうものがどこの山にでもあればおもしろいなと思うが、記念撮影ではなく、記念に持ち帰られるようでは困る。

山頂から今日これまで歩いてきた登山道を振り返ると、茶臼岳からあちこちで噴煙を上げているのが見える。あんな所から一気に歩いてきたのか、われながらすごいものだと感心する。ここからの展望もすごい。北に会津の山々。西に幾重にも重なる稜線。あれは日光から西会津、そして越後の山々だろうか。全体をうすいもやのようなもので覆い稜線だけが何重にも見える。黒い稜線と、全体を覆う白いもやとの、グラデーションが美しい墨絵のようだ。帰りの時間が気にかかる。まだ午後の早い時間だが、山の深さと高さ、位置を考えると日没が心配で、つい足も速くなる。

  再び赤面山に着いた。振り返ると朝日岳の上に太陽が輝いて、まだ高い位置にあるが東側の斜面は日が陰ってきている。稜線上の斜面には、クマザサが太陽の光を受け、錦繍に輝いて美しい。山頂では、腰を下ろさず小休止し、すぐに歩き出した。やがて赤面山登山口と書かれている標識の立てられた、スキー場のリフト終点に着いた。ここが登山口だとすると、ここへのアクセスを考えると、スキーシーズンにはリフトが運転されているが、無雪期の登山シーズンには、駐車場からここまでは、どうしても歩かなければならない。変化に富んだ登山道と違い、やたら広く、石がゴロゴロし、急勾配のここは、きついだけで楽しみのない斜面歩きである。登山口から登る赤面山はすごくいい山だが,登山口までのアプローチを考えるとうんざりしてしまう。

今朝登り初めの,あのびっしりしきつめた霜柱を考えたときの道を想像すると心配だったが、ゲレンデは東側の斜面で、霜は早く溶け、また今日は暖かいので、水分が早く蒸発して路面が固まったのだろう、朝の登り始めと比べ、しっかりした道であった。3時を少し回った頃車に戻り、その後紅葉真っ盛りの高原道路を走り、白河から日立に帰り着いた。今回の山行は前日に急遽決めたもので、あわただしくガイドブックをめくり計画したものだが、充実した山行となった。