奥秩父〜両神山 
国師ヶ岳(2592m)・甲武信ヶ岳(2475m)・金峰山(2595m)・両神山(1723m)
山行期間 平成11年6月11日〜12日
6月11日(金)  
   大弛峠(1:00→←0:40) 国師ガ岳(1:00→←1:10) 独標(1:00→←1:10) 東梓(1:00→←1:00) 富士見(0:50→←0:45) 西沢への分岐(0:20→←0:10) 甲武信ガ岳
    ( )内は参考コースタイム

 大弛峠8時5分着。8時45分登山開始。駐車場から登山道に入ったすぐのところに大弛小屋がある。この小屋の前を通りいよいよ登山開始だ。すぐに急な登りが続く。登り初めが8時45分で甲武信ヶ岳までのコースタイムが往復10時間ちょっと。これに休憩を入れると明るいうちに戻ってこられるか。ヘッドランプは車においてきたし、山頂まで行けなくても時間によっては無理をしないで適当なところで戻ろうと考えた。すぐに2592mの国師ヶ岳に着いた。南側には目の前に北奥千丈岳が見える。西側に見える今登ってきた大弛峠や明日登る予定の朝日岳、金峰山方面はよく晴れ渡っているが、これから行く甲武信ヶ岳のある北東方面はガスが発生し視界が悪い。小休止後再び登山開始。樹林帯に入り気持ちのよい山歩きが楽しめる。

それにしても樹木の立ち枯れが目立つ。歩き始めてからコメツガ、シラビソ、ダケカンやナナカマドの樹林帯が続いているが、コメツガ、シラビソの立ち枯れ、倒木があちらこちにあり、登山道が倒木でふさがれている。日の当たらない窪地に雪が残っていた。淡いピンクのまだ咲き始めたばかりのシャクナゲの可憐な花。静かな山歩きを楽しんでいるうちに、通過目標である独標、東梓、富士見、千曲川源流の分岐を過ぎ樹林帯から岩場の急登となり、やがてすぐ今日の目標である標高2475mの甲武信ヶ岳山頂に着いた。時間は12時6分。山頂には「日本百名山・甲武信ヶ岳・山梨県」と書かれた大きな標識が建てられている。全然意識してなかったがここは百名山の一つなのだ。ガイドブックによると、ここからの展望は天下一品とか絶景とか書かれているが、この日の山頂は雲が多く視界は悪い。ウィークデーのため山頂には私一人。しばらく休憩していると二人組が登ってきた。今日ここまで歩いて行き会った人は、それぞれソロ登山の3人と山頂での2人の計5人しか会ってない。静かな山行だ。

時間に余裕ができ、帰りはゆっくりとした気分での歩きができた。どこを歩いても倒木が目についたが、よく観察してみると新しい倒木に混じり、古くまもなく朽ち果てやがて土に帰るであろう倒木には、緑のきれいな苔がびっしりと覆っていて、京都だか奈良だか思い出せないが、以前写真で見たことのある、苔で有名なお寺の雰囲気が思い出された。また倒木の間には樹高1mくらいに育ったコメツガがあちこちに目につき、森の再生がよく観察された。歩いているうち、やがてガスがかかり、あっという間に視界が悪くなり、そのうち雷の音と共に雨が降り出した。気温もぐんと下がり、低木の木の葉も雨で濡れ、シャツやズボンも濡れ始めたため雨具をつけたが、この雨も程なくやんだ。来るときに見たシャクナゲの花、雨に濡れた花がいっそうきれいだった。この山を歩いて全行程を通して、コミヤマカタバミの白い花が見られた。このほか確認できた花の数は少なかったが、標高2500mに達するこの辺の山では、高山植物の開花はまだ早いのかも知れない。朝、この山に入ってすぐ木の香り。本当に木の匂いがするものだ。最初から最後まで木の香りと小鳥の鳴き声に包まれ、素晴らしい山である。

やがて国師ヶ岳に着いた。ここまで来れば大弛峠まで下るだけでもうわずかである。早く着きすぎても今夜の宴会(一人でやる寝酒でウィスキー、つまみを持参してきた。山行後の最大の楽しみ)を明るいうちからやるのも気分が乗らない。このため来るときに大弛小屋から少し登ったところにある「夢の楽園」と名付けられた所に寄ることにした。ここは国師ヶ岳の斜面の登山道から少しはずれたところにあり、巨石と灌木、そしてシャクナゲなどの高山植物でいろどられた景色のよいところで、昭和35年山小屋の管理人により発見されたと、案内板に書かれていた。ごろごろした岩やハイマツの間をぬって木道が整備されていた。この「夢の庭園」をぐるりと見て回り、出たところからすぐに大弛小屋、そして大弛峠となり、峠には5時に着いた。
 夜は車の近くの適当なところでテントを張って寝るつもりだったが、日も暮れ始めると雨が降り出した。このため車の中で寝たが、夜中に激しい雨と雷鳴で時折目を覚ましゆっくり寝ることはできなかった。
 翌12日土曜日、4時20分起床。すごく寒い。昨夜は4〜5台しかなかった車も今朝気がついてみると駐車場はいっぱいで、見渡せる限りの林道にも車が止められていて数十台はあるだろう。やはり休日になるとこの山はメジャーだ。


6月12日(土)  
   大弛峠(0:30→←0:25)朝日峠(0:30→←0:25)朝日岳(1:30→←1:00)金峰山
   日向大谷 (0:30→←0:25)七滝沢分岐(1:30→←1:10)清滝小屋(0:15→←0:10)
   産泰尾根

 朝食に作ったレトルトの五目ご飯とラーメンが体を温め、力をつけてくれた。5時、金峰山に向かって山行開始。途中朝日岳、鉄山と二つのピークを越えていく。見通しのよい稜線上にでると進行方向に槍の穂先のような異様な形の大きな岩が見える。地形図で確認したがあれが金峰山、とするとその手前にある小ピークが鉄山か。早くあの大きな岩の下に立ちたいとわくわくした気分になる。樹林帯の登り道に鉄山の標識があった。地形図で確認してみると登山道は鉄山のピークを通らず巻いている。
 最後の登りになった。途中金峰山小屋に宿泊して下山中のソロ登山者と会った。山頂はもうすぐとのこと。低木の樹林帯を過ぎ岩が多くなり、ハイマツとシャクナゲの植生に変わった。山頂は近い。やがて無数に点在するケルンと巨石群が現れた。しかしだいぶ前に見た山頂の巨大なオベリスクはそのずっと後方に見える。厳しい自然環境の中で上には伸びず地表をはうように育つダケカンバ、シャクナゲ、ハイマツ。そのシャクナゲの小さな花が可愛らしい。岩のごろごろするピークに達したが、あのオベリスクはあと100mほど先だ。近くに来て高所恐怖症の私はとうていあの巨石の上には立てないと実感した。すぐ下まで行き見上げると巨大な巨石の積み重ね。単に巨石といっても巨大な石のことだが、さらに巨大な巨石と形容したくなるほどの巨大さなのだ。金峰山の山頂はやはりあの巨石の上なのだろうか?

先に来ていた男女3人組がこの石の中間くらいのところで記念撮影をしていた。一番上の巨石には落書きがしてあった。さらにその上に4ヶくらいの大きな石が並べられている。この山、そして目の前の巨石の創生期を想像し、どういう状況であの巨石群が積み重ねられたのかと思いを巡らしたが、想像すらできない。巨石群の前に深紅の鳥居があった。自然の中に不釣り合いなほど真っ赤。辺りを見回すと北東方面に花崗岩でできた特異な山容の瑞牆山が見える。よく晴れ渡っていれば富士山の雄大な姿も見えたろうが、雲が多く遠くの山は霞んで見える。しかし山頂からは360゜山また山の展望。遠くには雲海も見える。標高2500mに達し、山梨、長野、そして埼玉県にわたる亜高山帯のこの奥秩父山塊の山の雄大さ。十分に山歩きの醍醐味を満喫させてくれた昨日、そして今日の奥秩父であった。山頂でしばらく楽しんで下山したが、途中たくさんの登山者が金峰山の山頂を目指す中、登山口の大弛峠に戻ったのは8時20分であった。

このあとすぐに次の山となる両神山に向けて悪路の林道を走った。

 11時45分に駐車場で登山口となる日向大谷に着く。登山口にある民宿の駐車場に車を止め民宿に立ち寄り、500円の駐車料金を払った。登山届けを記入し登山開始。植林されたヒノキの林の中腹につくられた登山道を歩き、すぐ自然林に入る。真っ赤な生イチゴがたくさんあり、それを食べながら歩いた。歩き始めてすぐにクサリ場。春ゼミが騒々しく泣き続ける。梅雨なのに太平洋高気圧の空、暑い。沢を横切る。渓流の清々しい音。登山道に時折落ちている白いガクアジサイの花弁、ちょうど今はアジサイの季節、コアジサイもきれいだ。しばらく沢に沿って歩く。

広葉樹の緑がきれいだ。このあたりからしばらくブユに悩まされた。目の前で数匹がぶんぶん飛び回っている。ハンカチを取り出し振り払うがすぐに再び集まる。以前このブユが目の中に入り大変不快な思いをしたことがある。振り払っても振り払っても執拗に眼前に飛び交うこの小さい虫は、多くの人が経験したことがあると思うが、なんとも不快なものである。しかしこの不快な虫もいつのまにかいなくなる。この虫にもはっきりとしたテリトリーがあり、ここを通過すると、今まであれほど気になったものも不思議と自然に忘れられるものだ。やがて道は急登となり高度をぐんぐん稼ぐように登っていく。ホオノキ、カエデ、ミズナラ、カツラ、そしてブナなどの落葉高木の緑が何ともいい。やがて左手に見えていた沢の水も枯れ、山を巻きながらゆっくりとした登りの道となる。地形図を取り出し確認した。清滝小屋は近い。すぐ弘法の井戸に着く。山腹からパイプで水が引かれているがその量は少ない。コップを車においてきたため水を手ですくって飲んだが、ほとんど口に入らない。めんどくさく持参の水筒の水を飲んだ。この水も今朝、大弛小屋で分けてもらった山の自然水だ。うまい。

まもなく清滝小屋に着くが休憩せずに通過する。小屋の裏から再び急登が続く。ヒノキと落葉高木の間に登山道がジグザグにつくられているこの急登には「鈴が坂」と名付けられた標識があった。呼吸を整えるための小休止をしながら、そういえばこの山はクサリ場が多いはずだけど、これまでクサリ場は登り初めてすぐに1ヶ所あったが、そのあとこれまでなかった。両神神社も間もないだろうし、これから先はすべてクサリ場かななんて考えているとき、すぐ上でクサリの音がした。見上げればほんの少し先にクサリを伝って降りて来る人が見える。これから先はずっとクサリ場かなと楽しみにしていたが、思ったほど緊張するクサリ場はなかった。

 1時53分山頂着。山頂は北東方面が一部ヒノキ、ナナカマドなどの樹林で覆われているが、あとはぐるりと山、山。山の稜線が2重3重に見える。昨日今日と登ってきた甲武信ヶ岳、金峰山方面にも山々が連なるが、どの山かはわからない。さほど広くない岩場の山頂では20人ほどの登山者がそれぞれ食事をしたり、思い思いの休憩をとっていた。私もここで食事をとった。1ヶ月ほどまえであればこのへんではヤシオツツジがきれいだったろう。
山頂では30分ほどの休憩をとりその後下山したが、途中ギンリョウソウを見ることができた。ガイドブックによると、両神山は信仰と伝説に満ちた山と書かれている。そのためか登山道のいたるところに石に掘られた石神なるものがある。よく里山などを歩いていて石仏はあるが、ここは両神の地名にもあるように、仏ではなく神なのである。帰りには気がついた石神様にはすべて手を合わせた。ここで有賀碧郷風に一句。普段無宗教の私だが「宝くじ 買ったときだけ 信仰心」てなわけで、登山口となった日向大谷に着いた。山に入るときに記入した登山届けに「無事下山」と記入した時は3時51分、登山者名簿で確認した私はこの日の最後の入山者だった。